本研究の全体構想は、自民党小泉政権から民主党鳩山・菅政権期における「国レベル」と「地方レベル」の政策過程を対象として、フォーマルセオリー、特に空間理論から政治主体である政党・候補者・官僚・有権者の行動を定式化し、3段階ゲームを用いて政治主体の行動から政策の均衡点を導出し、現実の政策との比較分析を行うことである。 本研究は、全体的な計画は大別して2つのパートから構成される。第1のパートは、空間理論による3段階ゲームを「国レベル」と「地方レベル」で構築し、それぞれで各段階ゲームの均衡点を導出し、それらの含意を比較検討することである。第2のパートは、空間理論による3段階ゲームの均衡点をデータから検証することである。必要なデータは国・地方レベルにおける有権者・議員、および地方の首長の政策選好を数値化したデータである。国レベルでは既存の社会調査データを使用する。地方に関しては、愛知県内の2つの市町で、有権者・議員・首長・幹部職員を対象として、政策選好を捉えるためのアンケート調査を行う。調査地点は、名古屋市と豊山町を予定している。名古屋市は河村市長と議会の対立が鮮明であり、鳩山民主党政権は河村市長の後押しをしているとみられる。豊山町は首長と議会の対立ではなく、行政と市民の討議民主主義的な政策形成が実験的に行われる予定のある町であり、3段階ゲームに新たなバリエーションを加えることが可能である。 平成22年度は、第1のパートである理論研究を中心に、当該自治体の状況を調査とアンケート調査の準備を行った。名古屋市は平成21年に河村たかし氏が市長となり、市民税10%減税、ボランティアによる地域委員会、経済対策などの政策を掲げた。さらに市議会議員の報酬引き下げなどを巡り、議会と大きく対立してきた。この市長と議会の対立はさらに拡大し、平成23年春の統一地方選挙に大きな影響を及ぼし、河村氏が応援する大村秀章氏が愛知県知事に当選した。名古屋市はこの間、新たな地域政党として「減税日本」が河村氏により設立され地域主権などを巡り、これまでの自民党政権下における中央・地方関係とは異なる様相を呈してきた。豊山町は名古屋市の北に隣接する町であり、県営名古屋空港を抱えるベッドタウンである。豊山町の喫緊の政策課題は名古屋空港に乗り入れる航空路線の減少である。平成22年度は、この2つの市と町が抱える政策課題を資料や担当者から聞き取り調査した。
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