本年度は、研究計画に基づき、3月にオランダとフランスの研究機関に行き、インタビューを実施した。 オランダは、ライデン大学の紹介によりオランダの多文化社会の変化と移民問題について質疑を交わすため、クリンゲンダール国際関係研究所に赴いた。同研究所の上級研究員らと、2004年のイスラム過激派による映画人暗殺事件とその後のオランダ社会の変化、およびEU拡大後のオランダの移民問題全般について討議した。また、オランダの自由主義的政治文化の背景をめぐって、フランスやベルギーなどと比較しながら論じあった。 フランスでは、INHESJを訪ねた。ここはフランス内務省と深い関係を持つ国立研究所であり、治安政策一般の調査・立案を手がけている。移民問題についての豊富な統計と分析を有しており、副所長や上級研究員らとの長時間にわたる討議をもった。フランスの移民問題、サルコジ政権時のアイデンティティ論争のバックグラウンド、移民団体の動向、カトリック高校におけるイスラム移民の増加などをテーマとした。 オランダ、フランスのインタビューでは、イスラム問題についてかなりの温度差があることが見て取れたものの、ユーロ・イスラム公共圏そのものが、イスラム移民の主体性というよりは、当該国の政府政策との関係に相当に左右される問題との認識を共有した。 こうしたインタビューと資料分析をもとに、イスラム移民のアイデンティティ分析について研究を進め、それを特にサルコジ時代の政策動向と照らし合わせる作業を進めてきた。サルコジの分析については別途発表しており、それを当プロジェクトのユーロ・イスラムアイデンティティ分析と総合して考えてきた。 研究全体を通しては、経済問題(雇用環境)と並んで共和国概念についてのフランス的とらえ方、そしてアイデンティティの宙吊り問題こそが解明を要する課題として浮かび上がってきた。これらを研究報告書にまとめていく。
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