本研究の基本目的は、市民的公共空間の現代的諸形態を理論的分析かつ実態解明の対象とすることで、世界的、国家的あるいは地域的公共問題の解決にそのような公共空間はどのように機能し、いかなる成果を上げているのかを明らかにすることにあった。最終年度となった本年度は、まず、〈市民社会と公共空間〉の相補性の観点から古典的理論の検討を活かし、現代的市民社会や民主主義の議論の整理を踏まえて、実効性のある〈市民社会と公共空間〉の理論への手がかりを得る総括的作業を行い、公共空間が、ハーバーマスが言うような市民的公論の場としてのみならず、そこから具体的なソーシャル・イノベーションを生起させていく変革創発の場ともなるべきであるとの結論的方向性を導出した。 このことに寄与したのが、平成24年夏に私費で行ったスペイン・ポルトガル・フランスでの社会的・連帯経済の実態調査である。とくにスペインでは、未曾有の経済危機に公共空間としての社会的協同組合が、一人の解雇者も出さない事業経営を続けている事例等が大いに本研究の総括的作業に参考になり、新たな社会実験に結びついた。 その社会実験とは、住宅関連企業と大学研究センターとが共同して、公共空間性を持った会社を設立し、従来の6倍の発電効率を持つ画期的なソーラーハウスを開発して、再生可能エネルギーの普及に取り組むことで原発への依存を減らし、かつ東北大震災被災地での二重ローン問題への解決の途を開かんとするものである。スペイン等の社会的協同組合に類似した市民公益事業を展開できる新たな公共空間の可能性を実証する新たな実践的研究へと本研究を架橋できる展望を得たこともまた本年度の特筆すべき研究実績であろうと考える。 これまでの3年間の研究をまとめ、公共空間とソーシャル・イノベーションの関連性を論じる著作を執筆し、公刊する予定である。
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