研究課題/領域番号 |
22530150
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 春美 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (00282492)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国際連盟 / 社会人道問題 / イギリス / 対中技術協力 / 東アジア |
研究概要 |
平成24年9月にイギリスに赴き、大英図書館、イギリス公文書館、ロンドン大学政経学院図書館、ケンブリッジ大学チャーチル・アーカイヴズなどで資料収集を行った。なお、この渡英に伴い、ケンブリッジ大学トリニティ・ホールで行われた第7回日英歴史家会議に出席し、若手セッションの司会、帝国史パネルの趣旨説明を行うとともに、ロンドン大学名誉教授イアン・ニッシュ先生、ロンドン大学教授ナオコ・シマヅ博士等と情報交換を行った。 資料収集としては、1935年以降40年までの国際連盟対中技術協力に関して調べ、秋以降は収集した資料の整理を行った。 収集した資料により明らかになった情報で特に興味深いのは、日中戦争の勃発後、協力が再び保健衛生面を中心とするようになったことである。さらに中国国民政府の重慶への移動に伴い、協力の場所も内陸、特に西南中国に移動した。保健衛生医療協力隊は英語、フランス語、ドイツ語という言語グループに分かれて活動したが、本研究ではそのうち英語グループのイギリス人について調査した。 対中技術協力の最終年に英語グループは雲南省の疾病状況についての学術調査を行っており、マラリア、ペスト、甲状腺腫などについての記録を残している。これは国際連盟の調査であったが、雲南省と接するビルマを領有していたイギリスにとっても興味深いものとなった。特に、重慶国民政府支援のためのビルマ・ロードが考えられていた時期で、沿線の衛生状況は雲南の疫病がビルマに、逆にビルマの疫病が雲南に広がることを予防するためにも重要な知見となったようである。 これまで国際連盟の対中技術協力に関しては2本の論文を執筆した(服部龍二ほか編著『戦間期の東アジア国際政治』2007年所収の1本、および2013年刊行予定の1本)が、この日中戦争期の対中技術協力に関しても論文をまとめたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究開始当初には、国際連盟に関連して東アジア、とくに中国で活動したヨーロッパ人がいるという程度の限られた情報しかなかった。しかし、ジュネーヴの国際連盟資料館、イギリスの大英図書館、公文書館、ロンドン大学政経学院図書館、ケンブリッジ大学チャーチル・アーカイヴズなどで地道に資料収集を続けた結果、国際連盟から国際連合にアヘン麻薬の取り締まりが引き継がれたこと、および、国際連盟の対中国技術協力についてはかなり詳細に把握することができたと考える。そして、この2つの問題は、イギリス帝国のビルマ、中国の雲南省で重なり合い、2つの国の国境地帯でのせめぎあいも見えてきた。また、その背景には日本との戦争、ビルマロード建設という問題もあり、社会人道面での活動が政治と切り離せない状況にあったこともうかがわれるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度が研究の最終年度であるので、基本的にはこれまで収集した情報を整理し、まとめていきたいと考えている。その際に、国際連盟の対中技術協力、国際連盟にかかわったイギリス人ということにとどまらず、イギリス帝国と中国との力のせめぎあい、第二次世界大戦の衝撃といったことも視野に入れていければと考えている。
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