2010年度(初年度)の研究遂行にあたっては、すでにある程度の研究を進めてきた「人間の安全保障」と「移行期正義」を題材として、規範的アイディアの形成要因とプロセスに関する、予備的な仮説の形成を目標とした。そのため、理論的な文献を読み、事例研究を進めた。 事例研究のために、(1)人間の安全保障委員会の補佐官をニューヨークに訪問し、人間の安全保障概念の形成過程ならびに国連総会における決議の採択プロセスについての聞き取り調査を行った。(2)東ティモールで治安・安全保障部門改革を統括した国連職員を招聘し、移行期正義に関する研究会を開催した。(3)国内において、人間の安全保障ならびに移行期正義に関する資料収集を行った(東京)。(4)保護する責任に関しても予備的な調査を開始し、シンガポールのナンヤン工科大学ならびに国際協力機構(JICA)主催による保護する責任に関するワークショップにおいて討論を行った。 本年度の研究成果として、人間の安全保障に関する規範的アイディアを生み出し編纂したアクター(特に日本)に焦点をあてた論文を、オーストラリア国立大学の国際会議において提出した。また国際学会(モントリオール)において、日本政府によるグローバルな規範の伝播政策に関する研究論文を発表した。これらの日本を題材とした、外交資料・聞き取り調査に基づく実証的な研究成果は、これまでに国内外でもほとんど行われておらず、規範的アイディアの形成や発展を理解するうえで貴重な視座を提供しているといえる。
|