本課題では、グローバルな「規範的概念」の形成と普及において、どのような国際プロセス、国内プロセス、また双方の相互作用が見られるのか等を、一次資料の分析と関係者への広範な聞き取りを通じて明らかにした。最終年度には、ニューヨークの国連代表部において、人間の安全保障に関する国連総会決議の推進者となった人々への聞き取りを行った。 人間の安全保障の規範形成において、日本は主要な役割を果たし、2000年代初頭には国際委員会の設置に貢献した。その後、メキシコらとの非公式連合が形成され、加盟国の多くを巻き込んで規範の普及が図られた。特徴的なのは、途上国を含む加盟国が国内的な既存の規範や実行と適合的な概念解釈を行ったことであり、その内容が国際的な規範普及の過程においてさらに同概念に影響を及ぼしていったというスパイラルの過程である。これは特定の規範がいったん形成されると規範起業家によってそのまま普及されるという、従来の構成主義モデルとは異なる結果であった。この成果は『コンストラクティビズムの国際関係論』(大矢根聡編、共著書、2013)、New Approaches to Human Security in the Asia Pacific(Bill Tow他編、共著書、2013)において公刊した。 また移行期正義の概念形成と普及においても、研究協力者が明らかにしたように、国境を越えた規範起業家の活動を通じて、特定地域で登場した移行期正義の規範が他の地域にも普及していった。その際には、ローカルな慣行や規範の影響を受けて、グローバルな規範の側にも変化が見られた。これらの事例から、グローバルな規範的概念の形成と普及においては、国境を越えたレベル、国内レベルの相互作用を組み込んだモデルが一定の説明力を持つ可能性があるといえる。
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