本年度はロシア地政学の系譜がロシアの大学教科書等を含めた一般書のなかで、どのように示されているかを明らかにすることに重点を置いた。ソ連時代には帝国主義を援護する理論としてタブーだった地政学は、現在ロシアの大学教科の一つになり、多くの教科書が出版されている。西側では地政学は領土拡張を正当化するような19後半から20世紀初頭の古典的地政学を超えて、環境問題等を含めたリベラルな多様性を持つようになったのに対して、ロシアではむしろ古典的地政学が正統な位置を占めている。特にその中でもロシア地政学の系譜がはっきりと示されるようになった。ロシア地政学を確立したのは、ユーラシア主義者のサヴィツキーらであるが、それ以前の地政学的発想を含めて、強引とも言えるロシア独自の潮流が示されることも多い。 上記の理論から北方領土問題に対するアプローチがどのようになされているのかを、ロシア研究者の言説から追った。特に自らをネオ・ユーラシア主義者に位置づけ、ソ連・ロシアで地政学の復権に腐心したドゥーギン、政権に近い論客として注目されているトレーニンらの日ロ領土問題解決案を分析した。 ロシアが領土問題を抱えるクリル諸島に対していかなる政策をとっているかについては、研究初年度から継続してフォローした。その中で住民に着目した簡便な千島列島の通史を書いた。
|