研究課題/領域番号 |
22530157
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山田 高敬 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (00247602)
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キーワード | グローバル・ガバナンス / パブリック・ガバナンス / プライベート・ガバナンス / 国際制度 / レジーム間相互作用 / 調整コストの社会的構成 / 気候変動レジーム / 国際労働基準 |
研究概要 |
本研究の主たる目的は、グローバル・ガバナンスの形態が多様化する中でパブリック・ガバナンス(PBG)とプライベート・ガバナンス(PRG)がどのように相互作用するのかというパズルを実証的に解明することにある。平成23年度には、研究計画で予定されていたパブリック・ガバナンスの一つである国際労働権レジームに関する現地調査を実施し、調査結果に関する質的な分析を行なった。ジュネーブでは、ILOの担当者に対して、CSRの中核的な基準となっているCLS(中核的労働基準)宣言が行なわれた歴史的な経緯と、PRGとして発達してきている労働に関するCSR(企業の社会的責任)の各種制度へのILOの関わり方などについて、ヒアリングを実施した。またパリでは、OECD多国籍企業ガイドラインの改定作業に従事したOECD日本政府代表部、OECD企業産業諮問委員会及びOECD事務局の担当者に対して、その改定の経緯と、改定プロセスへの国連人権理事会、ILO及びEUの影響について、同様にヒアリングを実施した。前者のヒアリングでは、労働基準を「人権」と関係づけることで労働基準の「普遍化」がはかられたこと、さらにILOは「国家不在」のPRGに対して意外にも批判的な立場をとっていることが明らかとなった。また後者のヒアリングでは、OECD多国籍企業ガイドラインにおいて「人権」の項目が新たに追加されたこと、国連人権理事会の影響が予想以上に強かったこと、さらにILOとOECDの関係が相互補完的であったことなどが明らかにされた。この調査結果から、労働権レジームが国際人権レジームに垂直的に統合されつつあること、それに伴いILOを含む国連の「権威」が強化されつつあること、さらにCSRをPRGとしてのみ推し進めることには限界があり、政府(特に先進国政府)や政府間機関が、萌芽的ではあるが、CSRにコミットするようになっていること、すなわちPRGのPBG化の兆しが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PBGとPRGの相互作用という視点から、とくにILOを中核とする国際労働権レジームとCSRの関係について、ヒアリングに基づく実証分析を実施するに至っているから。
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今後の研究の推進方策 |
OECD多国籍企業ガイドラインの策定を受けて、EUのCSR政策がどのような影響を受けるのか、その結果、EU、OECD及び国連/ILOといった政府間組織(IGO)の権威や正統性は増大したと言えるのか、という問いに答えるべく、PRGにおいて一定の役割を果たしてきた企業やNGOに対してヒアリング調査を実施したい。それにより、企業やNGOといったプライベート・アクターがPRGのPBG化をどのように評価しているのかを明らかにしたい。仮にPRGのPBG化が肯定的に評価されているとすれば、PRGとPBGとの間には補完性があると判断されることになる。また可能な限り、ILOの労働基準などのEUのCSR政策やPRGへの浸透の程度を数量的に測定する方法も併せて検討したい。
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