本研究の目的は、グローバルな問題解決をめざすガバナンス過程において政府が中心的な役割を果たすパブリック・ガバナンス(PBG)と、企業やNGOが中心的な役割を担うプライベート・ガバナンス(PRG)が併存しているのはなぜか、という問いと、PBGとPRGの間にはどのような相互作用が見られるのかという二つの問いに答えることにあった。 そして最終年度の24年度においては、欧州におけるCSR政策の立案に従事する欧州委員会へのヒアリング調査及び、この政策のステークホルダーの一つであるNGOへのヒアリング調査を実施することと、事例間の比較分析に基づいてPBGとPRGの相互作用に関して一般化可能な命題を導出することが予定されていた。 ヒアリング調査に関しては、ほぼ計画通りに実施することができた。CSR政策に関しては現在、企業に対して環境社会ガバナンス報告書(サステナビリティ報告書)を義務化すべきどうかという問題と、企業活動による被害を被る外国人に対して裁判請求権を認めるべきかどうかという問題が浮上している。とりわけ前者に関する法案の作成に従事する欧州委員会域内市場総局のCSR担当者に対してヒアリングを実施するとともに、後者の問題を含めてEUのCSR政策の推進力となっているECCJ(企業正義のための欧州連合)からも本研究に必要な情報を得ることができた。 ヒアリングの結果、CSRレジームがPRGを包摂する形で形成されつつあること、ならびに国連レベルでのCSRレジームの形成(グローバルなレベルでのPBG)とリージョナル・レベルでのCSR政策の実施(下位システム・レベルでのPBC)が密接に連動していることが判明した。本研究の成果は、報告者単著の論文「企業の社会的責任(CSR)に関する認識共有とグローバルなCSRレジームの形成」として次年度に刊行を予定している。
|