本研究は、ドイツの対外文化政策を歴史的・実証的に分析し、そこで展開される「文化のポリティクス」を検討することを通して、国際関係における文化の扱いについての考察を深めることを目指している。 平成22年度は、文献と史資料の調査分析を通じ、戦後西ドイツ対外文化政策の展開をあとづける作業を行った。一次資料については、以前にベルリンの外交史料館で収集(許可を得て撮影)した文書を整理するとともに、ミュンヘン現代史研究所アーカイヴに出張し、同地出身でシュミット政権期の対外文化政策形成に活躍したヒルデガルト・ハム=ブリュッヒャー氏の個人文書を閲覧した。同氏の文書は、年度始めに訪問を検討していたグマースバッハの自由主義文書館にも一部所蔵されているが、実際には上記アーカイヴが大部を保管していることが判明した。このため、本年度の出張はミュンヘンに集中して行った。 事例研究として、1950年代後半から60年代半ばまでの時期を対象に、西ドイツの外交官や政治家が対外政策の中で文化をどう位置づけようとしたかを考察するペーパーを執筆し、学会で報告した。ここでは、ドイツで今日一般的な「文化は外交の第三の柱」という理念と、その基盤にある国際関係を「政治・経済・文化」の三分野に分ける思考法を、「国際関係における文化」の認識枠組みとして設定した。分析の結果、西ドイツでは、冷戦下の東西対立競争や、20世紀後半における世界の構造的変容といった国際関係の展開の中で、「文化」が「政治(古典外交・安全保障)」や「経済(貿易・通商)」と並ぶ「外交の柱」として対象化されたことが実証された。 本年度はこのほか、国際関係における文化政策の意義と課題に関する全般的な問題提起を、学会シンポジウムにて行った。日本の文化交流関係者、文化政策研究者と意見交換を行い、「文化のポリティクス」についての問題意識を共有できたことは有意義であった。
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