本研究は、ドイツの対外文化政策を歴史的・実証的に分析し、そこで展開される「文化のポリティクス」を検討することを通して、国際関係における文化の扱いについての考察を深めることを目指している。平成24年度は、年度初めに予定した三つの作業を、以下のように進めた。 ①サーベイ:ドイツの対外文化政策および関連諸テーマについて、文献調査を通じ検討した。とりわけ事例研究で取り扱った1970年代までの西ドイツ対外文化政策をとりまく諸状況について、さらに理解を深めた。文化外交や国際文化関係に関する最新の研究状況も調査し、本研究の立ち位置を確認した。さらに、2012年8月のドイツ出張で2名のドイツ人研究者と面会し、現地における関連テーマの研究状況について助言を受けた。 ②史資料の調査分析:前年度までに収集した史資料の調査分析を進め、さらなる調査を行った。2012年8月にコブレンツ連邦公文書館、シュトゥットガルトの対外関係研究所図書館を訪問し、前者では主に文化交流機関ゲーテ・インスティトゥートの活動に関する文書、後者では1974年のロンドン・ドイツ月間に関する資料、文化交流団体会報のバックナンバー等を閲覧した。 ③「国際関係における文化」の分析枠組みの中での事例検討:1970年代における対外文化政策の公的原則形成過程を代表する以下の出来事について、事例分析を行った。(1)ブラント政権初期(1969~70年)における、ラルフ・ダーレンドルフ外務政務次官による改革の試み、(2)1974年のロンドン・ドイツ月間における、クラウス・シュテックの政治風刺アートの展示をめぐる論争(「シュテック事件」)、(3)1972年に新原則に基づく「モデル文化会館」として構想された東京ドイツ文化会館の設立過程。(1)は紀要論文執筆、(2)は学会報告、(3)は学術論文集(2013年4月出版)への寄稿の形で、分析結果を公表した。
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