研究課題/領域番号 |
22530164
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
杉山 知子 愛知学院大学, 総合政策学部, 准教授 (90349324)
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キーワード | ラテンアメリカ / 人権 / 移行期の正義 / 集合的記憶 / メモリアル / ミュージアム / コミュニティ / トランスナショナル・ネットワーク |
研究概要 |
平成23年度は、以下3点の研究実績があげられる。第一に、杉山知子『移行期の正義とラテンアメリカの教訓:真実と正義の政治学』(北樹出版、2011年10月5日、総201頁)を出版した。この著書は、グローバル化と人権NGO、人権問題との関連において、政治学を中心とする移行期の正義に関する近年の研究動向についての文献資料整理、批判的検討を行うと共に、事例研究として、アルゼンチンやチリの移行期の正義達成をめざす過程を紹介した。この著書では、民主化移行期において、民主化以前の軍政期における軍部関係者による市民への人権侵害(強制失踪、超法規的逮捕、拷問、政治的処刑など)が、真実委員会などにより、どの程度、どのように明らかにされていったのか、人権裁判やそれに関連する裁判と正義の達成について言及した。分析的視点としては、人権侵害についての真実と正義の達成について、どの程度のことが可能なのか、その限界についても検討した。第二に、移行期の正義(Transitional Justice)に関する議論は、近年、歴史的正義(HistoricalJ ustice)の議論とも重複する点が多く、その類似点・相違点を踏まえる必要があると判断し、文献収集、先行研究動向を調べることを始めた。さらに、日本の事例なども交えながら政治学・歴史学、心理学、カルチュラル・スタディーズなどの学際的分野の研究者による国際会議Historical Justiceand Memory Conference (Swinburne University, Melbourne, Australia)において研究発表を行った。第三点として、アルゼンチン、チリ、ウルグアイなどの集合的記憶形成のためのミュージアム、メモリアル、それらを運営しているNGOを訪問し、過去の人権侵害を受け止め、将来に伝えるための方策についての考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には、研究目的で示したように、アルゼンチン、チリ等の事例に焦点を当て、軍政期の人権侵害と移行期の正義のメカニズムについて、グローバル、ナショナル、ローカルなレベルについての検討をしており、その研究の一部は、『移行期の正義とラテンアメリカの教訓:真実と正義の政治学』に著し、おおむね順調に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き、移行期の正義に関する学際的な議論を批判的に検討するとともに、集合的記憶形成としてのミュージアム、メモリアルの建築やその機能、役割とその限界などについてアルゼンチンやチリを中心に考察していきたい。国際人権レジーム・規範の形成というグローバルな動きと地域ベースのローカルな動きとの関連性についても考察していきたい。
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