最後の年となる2012年度は、以下3つの点に重点的に取り組んだ。第一に、研究成果の発表である。5月に赴いた米国コロラド州の国際会議では、中国の海洋戦略に対して、日本と米国とがどのようにそれを認識しているかに関して、発表を行った。中国人による研究者が数多く集まる会議においては、それが米国で開催される際でも、日本に関する知見が中国経由でもたらされているために、そこで詳らかにされる日本情報は、必ずしも現実の日本を反映しているとは限らないことが分かった。 第二に、折しも尖閣諸島の国有化が中国で問題となった8月に香港を訪れ、香港中文大学において当該研究課題である米国の対中影響力、および今後の日中関係の展望に関して、意見交換と資料収集を行った。中国の周辺諸国に対する戦略は、強制外交的側面と協調外交的側面とが同居しており、それは政府の公式見解からは簡単に判断がつかず、実際の外交政策を検証して判断するしかないのである。 第三に、研究成果に関する研究会の実施を行った。内外からアジア太平洋国際関係の専門家を6人ほど時期を異にして招聘し、彼らと一緒に研究会を行った。その際に、資料の準備や、招聘研究者に関する情報収集として研究補助者を必要とした。とりわけ、日中関係が微妙な時期に中国から研究者を招聘することは相当程度困難を極め、最終的に来日するのかどうか微妙な時期も存在したが、その研究会実施に際して、日米中の三国間関係に関する専門知識を有する研究補助者を必要とした。 この「米中関係における『影響力』」に関する調査は、何がパワーであるか不明瞭な今日の国際関係において、軍事力以外の「影響力」に関する両国間の実態を明らかにするものであるため、さらなる研究の継続が必要である。
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