研究課題/領域番号 |
22530169
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研究機関 | 新潟国際情報大学 |
研究代表者 |
高橋 正樹 新潟国際情報大学, 情報文化学部, 教授 (50288247)
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キーワード | ビルマ / ミャンマー / タイ / ASEAN / 軍事政権 / 東南アジア / 民主化 / 内政不干渉 |
研究概要 |
平成23年度に実施した研究の具体的内容としては、若干の遅れはあるがほぼ実施計画の通り、1990年代以降のビルマ(ミャンマー)のASEAN加盟に向けたタイ外交の展開と、そのASEAN加盟がビルマ軍事政権の権力基盤に与えた影響を分析した。この研究は、本研究の全体構想におけるタイがビルマの軍事政権を支えた政策を、ASEANという地域国際秩序の構築を通じて実施した側面を明らかにしようというものである。 ビルマは1997年にASEANに加盟した。ビルマにとってASEAN加盟は、第1に、国家としての国際的正当性を獲得することができた。これはとくに軍事政権に批判的な欧米諸国に対抗する意味があった。その裏返しとして、欧米はビルマのASEAN加盟に反発することになった。第2に、隣国、とくにタイと政府間関係の正常化と安定化を促進させる地域主権国家間体制(ウエストファリア体制)の制度的基盤を得ることができた。97年の加盟後、タイの民主党政権はビルマに民主化を要求する「柔軟関与」政策を提唱し、両国の関係を悪化させたが、その後、タイ政府(タクシン政権)は再び内政不干渉政策に復帰した。ASEANは安全保障組織ではないが、これにより、加盟国同士の武力行使や主権の侵害は正当性を持たず非難の対象となった。第3に、ビルマは88年の民主化運動弾圧以後中国に急接近していたが、ASEAN諸国との関係を強化することで、ビルマ軍事政権への中国の影響力の強化に制限を加え、東南アジアの分裂を避けることができた。このことはビルマ軍事政権にとっては外交上の選択肢を広げることができたとともに、ビルマとの政府間関係を強化したいタイにとっても重要なことであった。以上のことから、ビルマのASEAN加盟が軍事政権の安定化と強化につながったことがいえるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
やや遅れている理由は、昨年の東日本大震災により22年度に予定していた研究調査出張の一部を23年度に実施したため、23年度予定の研究実施に若干の影響が発生したためである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更はなく、今後は2001年から2006年のタクシン政権の対ビルマ政策を分析する予定である。タクシンは民主党政権とは異なり、ビルマの軍事政権との関係の安定化を重視した。それはタクシン個人とタイの経済界のビルマとの経済関係の強化を優先した結果であった。とくにタイのビルマの天然ガス購入がビルマに大きな収入をもたらし、それによりビルマ軍事政権は財政的基盤を安定化させていった。今後はこれらのことを詳細に分析したい。
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