研究課題/領域番号 |
22530172
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
柴山 太 関西学院大学, 総合政策学部, 教授 (50308772)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 国内冷戦 / 国際冷戦 / GHQ / ソ連 / 日本共産党 / 治安政策 / 反マーシャル・プラン / 共産主義 |
研究概要 |
本年度の成果としては、2012年12月15日に占領・戦後史研究会(於二松学舎大学九段キャンパス)で、「日本の国内冷戦1945~1955-研究課題とアプローチ」と題して、これまでの研究の進捗状況と得られた知見を報告した。その概要は以下のとおりである。これまで入江昭やギャディスらの著名な冷戦史研究者が、アジアでの冷戦開始を朝鮮戦争時まで下げる議論を提出してきた。が、しかし研究代表者(柴山)は、収集した史料に基づき、スターリンが1946年3月に英米を「危険極」(ナチドイツ並みに破壊的国家)として名指し世界規模の冷戦を開始し、その一部として日本でも日本共産党が反GHQ的な活動を始めたことを指摘し、冷戦に地域的時差がないと主張した。とくにGHQ史料によれば、1947年には、日本共産党はソ連から反マーシャル・プラン闘争を助ける陽動作戦を行うように指令された可能性は極めて高く、さらに日本共産党は、東欧諸国での人民民主主義革命と同様の革命を日本でも実現すべく行動を始めていた。つまりソ連からすれば、極東での共産主義勢力の活動は基本的に他地域での冷戦と連動させていたのである。ただし彼らからすれば、極東での活動はあくまで欧州での反マーシャル闘争を促進するためのものであり、日本の国内冷戦は国際冷戦に利用されたのである。それゆえ研究代表者は、最近一部専門家が提出しているアジア冷戦起源説―1945年8月15日以降のソ連による北海道占領参加問題と、占領管理へのソ連の発言権問題が、冷戦の起源となったとする説―には組しないと報告した。上記の理由に加えて、さらなる理由として、収集した史料によれば、すくなくとも1945年12月のモスクワ会談では、ソ連側は意図的に米ソ協調と英ソ対立を行い、英米分離工作をはかり、米ソ間で極東問題を議論し、かつソ連がマッカーサー支配を受け入れたという経緯も存在するからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの達成度について、研究報告ができる程度まで進んだことには満足している。ただし収集できた史料の分厚さについては、ばらつきがあると認めざるを得ない。具体的には、1945~1948年までのGHQおよび第8軍関係の史料については、かなりの自信を持っているが、それ以後の時期については、まだまだ収集したい米国側史料は存在する。とりわけ1949年以降のGHQの治安情報史料に関して、研究代表者が獲得できていないものはかなりある。これから研究代表者により、米国側の分析が進み、最終的に必要なら、また米国への史料調査を行う必要もあるかもしれない。他方、日本側の史料については、かなりの原資料やそのコピーを獲得することで、これまでに光があたってこなかった日本政府治安担当者やその外にいる反共圧力団体の動きについて、分析を進められる可能性が出てきた。その一方で日本共産党指導部の回想録や全集に関しては、その収集がまだまだ不十分であると認めざるを得ない。研究論文の進展に関しては、国際冷戦に関するもの、とりわけ1945年12月のモスクワ外相会談や1946年3月のスターリンの動きについてはかなり執筆が進んでいる。反面、日本共産党の個々の指導者に関する分析・叙述は不十分であると言わざるを得ない。国内冷戦に関する執筆状況よりも国際冷戦に関する執筆状況のほうが明らかに進んでいる。そのために国内冷戦での分析視角から、国際冷戦をとらえなおすという知見の獲得が停滞しているのではないかと懸念している。他方ロシア語を勉強した結果、米ソ関係に関するソ連外交文書集も読み始めることができるようになり、遅々とした歩みであるが、これまで以上にソ連による国際冷戦・国内冷戦への関わりを理解できるようになったのは収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
史料収集という観点からは、まだ不十分な1949年以降のGHQ関係史料の収集のために、米国への収集旅行を行う必要がありうるかもしれない。これはこれまで収集した米国側史料の解析の進展に左右されるものと考えられる。また日本共産党指導部の回想録や全集に関しては、その収集と分析を同時に進める必要があり、次年度の予算で、同党指導部を構成していたリーダーたちの史料・全集を収集・購入したいと考えている。これらの史料と全集の分析をつうじて、日本共産党指導部が国際冷戦の進展をリアルタイムでどのように見ていたかが明確になると思われる。そこではソ連共産党とりわけスターリンが考える日本革命の姿と、日本共産党指導部が考える日本革命の姿のあいだにおける差異・共通性が明らかになる可能性がある。また今年度に購入したスターリン全集およびロシア語文献の読解が進めば、スターリンが考えた日本革命の理論的前提が見えてくる可能性があり、そうなればより深い分析が可能になると期待される。また執筆に関しても、かなり国際冷戦関係部分は進んでいるため、できれば専門家に原稿を読んでもらい、研究方向や具体的叙述の修正を行うことにより、よりよい分析・叙述につなげたいと考えている。また日本共産党指導部の史料・全集を読み込むことにより、その思想的な特殊性を発見できれば、国際冷戦の枠組みの中での国内冷戦の特殊性を指摘できる機会が得られるかもしれないと期待している。また日本政府の治安政策やその外にいる保守的な圧力団体による反共活動についても、これまでの史料収集にあぐらをかくことなく、占領・戦後史研究の専門家との情報交換を進める中で、新たな史料発掘・獲得を進めていきたい。この分野はまだまだ開拓の余地があり、どこまで広がるかわからないところがある。これからも精進したいと考えている。
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