本研究で行った動学マクロ分析に基づく長期不況理論の確立と、今後の発展の可能性について、いくつかの国内および海外の研究集会で発表した。 そこでは、はじめにこれまで従来の短期不況理論と長期不況を扱う本研究との構造上の違いを示し、マクロ経済学における本研究の位置を明確にした。動学的な枠組みで導かれる需要不足を伴う不況は、短期でも長期でも貨幣保有願望を表す流動性プレミアムが消費願望を表す時間選好率を超えることによって発生する。従来の議論では、この状態を求めるために生産力や貨幣供給量の持続的減少を仮定しているが、これらが永続することはないため長期不況を説明できない。本研究では、貨幣保有願望の非飽和性を仮定すれば長期不況が発生することを示した。さらに、長期不況は貨幣への願望に限らず、資産全体への保有願望でも起こり、そのときにはゼロ金利も説明できることを明らかにした。 つぎに、自分の資産保有高の社会の平均値との差を気にする家計(地位選好)を考え、その場合には資産保有願望が非飽和になって、ゼロ金利のもとでも長期不況が生まれることを示した。 本研究におけるもう一つの重要な要素として粘着的賃金調整がある。これについても、従来のマクロ・モデルと本研究との本質的な違いを議論した。従来のマクロ・モデルではCalvoモデルが使われるが、それでは需要不足を取り扱うことができない。これに対して本研究で採用した賃金調整では、労働者が社会の失業状態を考慮しながら公正賃金を形成し、企業はそれを参考に実際の賃金を決めていくため、需要不足(失業)が賃金の動学を形成している。これにより、非飽和的資産願望の下で長期不況が生まれることがわかった。 国際経済への応用についても、好況の国と不況の国での経済政策の相互作用を取り扱うモデルを構築した。今後、本研究を新たなプロジェクトを立ち上げていく予定である。
|