研究概要 |
異質な時間選好率を持つ個人を含むマクロモデルにおいて所得の変動と消費の変動の関係を調べることができた.その結果,同質的な時間選好率を持つ個人の場合は消費を完全にスムージングするが,本研究のような異質な時間選好率を持つ個人は所得の変動に対して正に消費を反応させることが分かった.この結果は,流動性制約などの条件を課すことなく得られているところに価値がある.また,この結論は消費の効用を労働供給の不効用よりも低く割り引く場合に得られた.このことは,サイン効果(不効用=損失の方を低く割り引く)の存在を前提とするとより現実に近いケースに対応しており,現実のデータを説明する有力な理論仮説であるといえる. 資本蓄積を考慮に入れた異質な時間選好率を持つ個人を含むマクロモデルを構築することができた.このモデルは唯一の定常状態が存在し,定常状態に収束する一意の経路が存在することも示された.今年度には,このモデルを用いて経済成長と貯蓄率の変動について試験的なシミュレーションを行った.その結果,経済成長が進展するとそれに伴い貯蓄率も上昇するという関係を得た.通常の経済成長モデルでは経済成長は貯蓄によって促進されるという関係をベースにしているが,本研究ではそれとは逆の因果関係が存在する可能性を示すことができた.この点は,実証研究の結果とも整合的である. さらに,内生的な成長モデルを構築して定常状態に初期時点でジャンプするモデルにより,経済厚生の評価を行う準備ができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデルビルディングは順調であり,当初の予定通り「資本を考慮しないモデル」をまず構築し,次に「資本を考慮したモデル」も構築できた.それらのモデルの解析もできている.それに加えて,モデルの解析を通じて所得の変動と消費の変動の関係が現実のデータと同様の動きを示すことが言えた.通常のモデルでは決して得られない結論であり,非常に重要な結果であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
第1に,資本蓄積を考慮したマクロモデルを用いて経済成長(資本の蓄積)が貯蓄を促進することを現実的なパラメーターのもとで示す.このことにより実証分析の結果と整合的な結果を理論モデルが動くことを示すことができる. また,異質な時間選好率を持つ個人を含むマクロモデルは異時点間の非効率性と同じ個人内での非効率性を持っている.そこで2番目の課題は,資本を考慮したマクロモデルにおいて異質な時間選好率を持つ個人の経済厚生を改善する課税政策を見つけることを目指す.
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