今年度には異質な時間選好率を持つ個人を含む資本蓄積を考慮に入れた内生的成長モデルを構築することができた.成長の原動力は資本の限界生産性が逓減しないことにある,シンプルなローマー型を想定した.また,以下でいう個人は同一人物ではあるが,時間非整合性が存在するので各時点において個性が異なることに注意が必要である.まず以下のことを示したこのモデルは唯一の定常状態が存在し,定常状態に初期時点でジャンプする.このために時間を通じて異質な個性が存在するにもかかわらず,経済厚生の評価を行うことが可能になった.消費に適用する割引率が労働の不効用に適用する割引率よりも低い場合,個人は消費を先延ばしにしてしまうので,それを防ぐために消費や利子所得に対して補助金を出すことで厚生を改善できることが示された.逆のケース(消費に適用する割引率が労働の不効用に適用する割引率よりも高い場合)では,消費と利子所得に対して課税することで厚生が改善することが示された.さらに,十分先の将来に存在する個人は消費や利子所得に対して補助金を出すことで厚生が改善することが示された. さらに,消費に適用する割引率が労働の不効用に適用する割引率よりも高い場合には消費に対しては課税し,利子所得に対しては補助を出すことによりすべての個人の経済厚生を最大化できることを示すことができた.時間非整合性が存在する経済モデルにおいては経済厚生の評価は非常に複雑になることが多いので,これは非常に興味深い結果である.
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