研究概要 |
不均衡成長モデルに関して、先駆的な業績を挙げその理論的な基礎を構築し確立したのは、W.J.Baumolである。そこでまず彼の初期の分析とその後の理論展開及び関連した数多くの経済成長モデルに対する彼の詳細な検討と評価をきちんとは把握するために、それらを纏めた彼の著書(Baumol,2002)を尾道大学の足立英之学長らと詳しく検討し議論を重ねながら翻訳し出版した。第4章、第5章とともに第15章「マクロ経済学の諸モデルと成長を制限する諸関係」を担当し、「訳者はしがき」の中で、彼のイノベーション理論と不均衡成長モデルの有用性とその発展可能性について明らかにした。 不均衡な経済成長とそれに伴う所得格差の通時的な変化は、蓄積される生産要素の種類や数及びそれらが持つ外部性にも大きく依存する。そこで、家計の動学的最適化行動の結果として物的資本と人的資本の両方が蓄積し、さらに人的資本が生産に対して正の外部効果を持つような成長モデルを構築し分析を行った。従来の研究においては、効用関数や生産関数を特定化して分析を行い、最適な資源配分を達成するための再分配政策が導出されていた。これに対して、より一般的な効用関数と生産関数を用いて分析し、人的資本のような市場では取引されない生産要素を含めた生産要素間の限界代替率と(暗黙の)価格比を一致させるという政策ルールを適用することによって、経済を最適な資源配分状態へ誘導できることを示した。また、このような所得再分配政策で外部性を内部化するのが可能であるのは、経済が長期的に均衡成長へと収束していく場合に限られることも明らかにした。
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