研究課題/領域番号 |
22530180
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中村 保 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (00237413)
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キーワード | 経済成長 / 技術進歩 / 人的資本投資 / 教育費用 / 不確実性 / 所得格差 |
研究概要 |
経済成長の主要なエンジンとして、物的資本の蓄積とともに人的資本の蓄積が挙げられるが、経済成長とその果実である所得の分配において、人的資本の果たす役割は近年ますます重要になっている。そして、人的資本への投資の偏在が不均衡な経済成長を生み出し、それによってもたらされる所得格差が成長の不均衡を再生産する。この過程で重要なのが、人的資本投資の費用(典型的には教育費用)と投資の成果に関する不確実性である。そこで、これらについて別々の動学モデルを用いて分析を行った。 技術進歩は、それを活かすことができる人的資本の蓄積がなければ経済成長には貢献しない。この点を考慮した動学モデルを構築し分析を行った結果、人的資本投資(技術獲得)の費用が技術進歩率の変化に伴ってどのように変化するかが、経済成長と所得格差を考える場合重要であることが分かった。具体的には、技術進歩が加速しても費用があまり上昇しない場合、熟練労働者数の増加とともに所得格差も拡大するという「スキルプレミアム・パズル」が発生する。これに対して、費用が急激に上昇する場合、経済成長と所得格差に循環的な変動が発生する。 不確実性が人的資本投資へ与える影響について、従来の研究では、人的資本を獲得した後の人々の行動については十分に考慮されて来なかった。この点をきちんと考慮した不確実性下の動学的投資モデルを構築し、不確実性の増大した場合、労働の負効用が小さい人は投資を増加させるのに対して、負効用が大きい人はむしろ投資を減少させることが明らかになった。この結果を経済発展モデルに応用して分析し、発展の初期段階では、不確実性の増大は投資を増加させるが、成熟段階では投資を減少させることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度は、不均衡成長モデルに関する既存研究についての理解をかなりの程度進めることができた。その上で、平成23年度は経済成長と所得分配の関係を分析するためのいくつかの動学モデルを構築し分析を行うことができた。その結果、暫定的ではあるがいくつかの重要な結論を得ることができた。今後はこれらのモデルの精緻化と結論の頑健性についての検討が不可欠である。
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今後の研究の推進方策 |
経済成畏と所得分配の中期的関係を明らかにするために、22年度末に構築した正規雇用と非正規雇用の変動を考慮した成長モデルを、特に雇用の調整費用関数の役割に焦点を当てながら、精緻化して分析を行っていく。より長期的な成長と所得格差の関係については、23年度に始めた(1)技術進歩とそれを活かすための人的資本への投資を組み込んだモデル、(2)入的資本投資の不確実性を考慮した成長モデル、を発展させて分析を行う。必要であればシミュレーション分析も行う予定である。それと並行して、研究補助者に協力してもらいながら、理論モデルから得られた結論の現実妥当性についての実証的な検討を進める。
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