研究課題
これまでの研究で、技術進歩の違いや個人の選好の違いによって所得や資産に格差が生まれること、そして、税制や教育政策等によってそれらの格差が少なくも部分的には縮小できることが分かってきた。しかし、それらの格差は、個人が物的資本や人的資本への投資を主体的に決定した結果として生まれてきたものであり、その意味では、容認できる、あるいは容認すべき格差と考えることもできる。それに対して、不確実性によって生じる格差や世代を越えて固定される格差は、容認することは難しい。そこで、前年度から始めた不確実性が人的資本投資に与える影響を考慮した成長モデルを発展させて、これらの点についての分析を行った。具体的には、(1)投資の結果獲得される人的資本に関する不確実性と(2)人的資本投資に要する費用の不確実性、の2つを考慮して分析を行った。(1)の不確実性が人的資本投資に与える影響は労働の限界不効用に依存し、限界不効用が労働とともに急激に上昇する場合不確実性は投資に負の影響を、それほど上昇しない場合は正の影響を与えることが明らかになった。高所得者ほど限界不効用の上昇が大きいと考えられるので、(1)の不確実性は格差の固定化の解消に貢献することになる。これに対して、(2)の不確実性は格差を固定化させる方向に作用することが明らかになった。高等教育を受けるかどうかの選択のように、最終的な費用が不確実な状況下で、人的資本への投資を決めなければならない場合がある。この時、投資を行うことによって失う現在の消費からの効用が大きな役割を果たすことになる。消費からの限界効用が逓減する限り、所得の低い個人の限界効用の損失の方が大きいので、不確実性によってより大きく人的資本への投資を減らす。このように、不確実性の種類によって、それが格差の固定化に与える影響は大きく異なることが分かった。
24年度が最終年度であるため、記入しない。
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東亜経済研究
巻: 第70巻1号(掲載確定) ページ: 87-106
Theoretical Economics Letters
巻: Vol. 2, No.2 ページ: 125-129
国民経済雑誌
巻: 第197巻第1号 ページ: 65-78