まず最初に、論文"The Socio-Economic Foundations of Altruism"において、近年取り扱われてきた利他的行動に関する研究のサーベイを行った。その論文では、経済学、心理学、社会学および生物学の近年の諸研究に基づきながら、利他性とはそもそも何なのかについて明確に定義することからはじめた。そこにおいて、egoistic、egocentric、およびaltercentricの三つのパースペクティブに分類することで、利他的行動に関する研究を概観した。経済的不平等にたいして、利己的な金銭的動機だけではなく、社会的選好をもつ経済主体を取り扱った行動経済学研究についてのサーベイをおこなった。経済的不平等にたいして、個々の経済主体がどのような心理的バイアスを引き起こすのかについても論じた。さらに、行動経済学の経済倫理学的基礎づけへの可能性も考察した。最後に、社会的選好の進化的創発プロセスについて言及した。そこにおいては、ハーバート・サイモンのdocilityの概念を新たに見直す必要性を説明した。 論文"An Economic Analysis of Social Exclusion and Inequality"においては、企業が、ある一部の労働者を生産過程から排除し、経済的不平等が生じるメカニズムを論じた。学会報告の"A Behavioral Economic Model of Cultural Bias"においては、異なる文化的背景をもつ労働者がいる企業組織を想定した。その報告において、異質な労働者のもつ心理的バイアスが、どのような経済的影響を経済組織に及ぼすのかについての理論的考察をおこなった。
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