研究課題/領域番号 |
22530184
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
島田 章 長崎大学, 経済学部, 准教授 (60196475)
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キーワード | 国際労働移動 / 利他主義 / 送金 / 消費 / 投資 / 労働移動の可能性 / 賃金格差 / 人的資本ストック |
研究概要 |
まず利他主義が移民の送金におよぼす影響と利他主義が家族の送金の支出におよぼす影響を調べた。先行研究は専ら移民の送金受領者、例えば移民が出身国に残した家族、にたいする利他主義の影響を明らかにしようとしたが、送金受領者の移民にたいする利他主義については関心をもたなかった。これにたいし本研究は移民と送金受領者が互いに利他的であると仮定し、利他主義が送金額におよぼす影響と送金の使用目的、すなわち消費か投資におよぼす影響を明らかにした。具体的には、移民が送金受領者にたいして利他的であるほど送金額は大きいが、送金受領者が移民にたいして利他的であるほど送金されたお金が投資ではなく消費に支出されやすいことを導き出した。この結果は、構成員を移民として送り出す家族が構成員どうしで互いに利他的であるほど、送金が経済発展につながりにくいことを含意している。なぜなら利他主義により、送金されるお金が増えても、それが消費に使われてしまうからである。 つぎに労働移動の可能性が存在するもとで、労働の送り出し国での熟練労働者と不熟練労働者の賃金格差と労働の受け入れ国での賃金格差の違いが労働の送り出し国の人的資本形成におよぼす影響を調べた。その際、先行研究とは異なり、労働者は教育を需要するために貨幣的費用を支払わなければならず、教育は教育市場をつうじて取引される、と仮定した。そして労働の受け入れ国の賃金格差が労働の送り出し国の賃金格差よりも大きい(小さい)場合、労働移動の可能性の上昇により、労働の送り出し国の熟練労働者(不熟練労働者)は人的資本ストックの増加、すなわちbrain gainを経験し、労働の送り出し国の不熟練労働者(熟練労働者)は人的資本ストックの減少、すなわちbrain drainを経験することを明らかにした。この結果は、労働の受け入れ国の現在の賃金格差が労働の送り出し国の将来の賃金格差に影響する可能性があることを含意している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際学会等で発表を積極的におこなったことにより、研究の目的としていた問題がより鮮明になった。またこれにより、研究の目的としていた問題を取り扱った論文が査読制の国際雑誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
国際労働移動に関連して、どのような現実問題がしょうじているかを広く探索し、それらをモデル化することにより、それらの問題の経済厚生にたいする負の影響を取り除くための政策処方を示す。
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