本年度の研究は、途上国の貧困と格差の解消という視点から国際・国内労働移動をとらえた。そして国際・国内労働移動がどのような条件のもとで人的資本の形成を通じて貧困や格差の解消に貢献するかを研究した。 従来の研究では親の外国への移動とそこでの労働(parental migration)と残された子供の報酬をともなわない労働(unpaid child labour)は独立に議論されたが、これは現実関連性が低い仮定と言わざるを得ない。 そこで本年度の研究ではまず、親の外国への移動とそこでの労働と子供の報酬をともなわない労働が同時に発生するものと仮定し、子供の学校教育と人的資本形成の促進のために必要な政策とはどのようなものであるかを検討し、これらの政策のもとで国際労働移動が貧困の解消につながる可能性があることを明らかにした。 また従来の研究では人的資本形成における家庭教育(home education)の役割は学校教育(school education)ほど明示的にモデル化されることが少なかった。しかし国内労働移動は、その形態によって家庭教育の大きさが大きく異なる。 そこで本年度の研究ではつぎに、国内労働移動をモデル化する際に家庭教育を明示的に含め、国内労働移動がおこなわれる際どのような条件のもとで家庭教育が人的資本形成に貢献するかを検討し、与えられた条件のもとでどちらの国内労働移動、すなわち親だけの国内労働移動(parental internal migration)または家族をともなった国内労働移動(family internal migration)が人的資本の形成につながる可能性があるかを明らかにした。
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