研究概要 |
交付申請書の研究計画に基づき8月から9月にかけて,人工市場実験を実施した。実験に協力した学生は延26名である。実験参加者に多様性を持たせるために,人間だけによる実験と,コンピュータ・プログラム・マシンも参加する実験を行った。また市場特性を調べるために,板寄せ方式とザラバ方式の実験を行った。実験回数は計24回になった。 実験の結果から,次のようなことが判明した。約定率と約定枚数に関しては板寄せとザラバで顕著な相違が現れた。約定率は板寄せでは約50%であるのに対して,ザラバでは100%に近くなった。特に人間だけが参加した実験で,約定率が高くなった。約定枚数に関しても,ザラバの方が板寄せの約2倍近くになった。原因・理由の解明は今後の課題であるが,実験によって証券市場での約定率や約定枚数を増大させるためのヒントが発見できた。 また,ワルラスは『純粋経済学要論』でパリやロンドンの証券取引所に入って価格形成の過程を分析しているが,その市場は板寄せ市場に近い。ところが今回の実験では,ザラバ市場では需給不一致の状態の継続することが判明し,ワルラスの想定した需給一致に基づく価格決定の基本的な分析の枠組みは使えないことが分かった。人工市場研究の優れている点は今まで知られていなかった経済現象を発見できることにあるが,発見された事実を経済学は説明できなければならない。研究の一部はすでに本年3月20日に進化経済学会名古屋大会の「マルチエージェント・社会実験」のセッションにて報告したが,価格形成の理論的分析の枠組みとして,オーストリア学派理論が提供している企業家的発見の市場過程論(マーケット・プロセス論)と融合させ,それに基づく理論を構築する必要があると考えている。
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