交付申請書の研究計画にしたがって,6~8月に人工市場実験を行った。本年は研究計画の最終年度であるので,これまでの実験データを参考にしつつ過去のデータと比較対照できるような実験を行った。すなわち,実験に用いる現物価格の系列を今までに実施した実験と同じものとし,また部分的に実験に参加したコンピュータ・プログラム・マシンも従来と同じ戦略を取るようにした。実験に協力した学生は13名で,参加した個々の人間は過去の実験に参加した人間と異なるが,実験環境は同一でありそのうえで総括的な実験を実施した。毎回,実験を実施したのちに各人にアンケート調査を行い,各人の取引戦略と実験結果の関係を調べた。本年度の実験では,序盤から中盤にかけて現物価格と先物価格の乖離が見られ、終盤にその乖離が消失するという価格系列がたびたび見られた。現物価格の変化を正確に予想することは不可能であるが,時間経過にしたがって過去の価格変動データが蓄積され予想が正確になるのであろう。また,売買価格と売買数量に関して類似の変動パターンが出現することもあり,変動パターンと提示される売買注文の価格と数量にはある程度の関連は見られた。しかし人間の多様な主観が複雑に絡み合って入っていることも判明した。例えば取引エージェントに関しては,マシンの参加する実験において負けたことのない人間が,マシンの参加しない実験ではほとんど勝てなくなる事例や,マシンが参加している時にはあまり勝てない人間が,マシンが参加しなくなるとかなり勝てるようになる事例も得られた。損益に関しては勝率の高いプレーヤーが必ずしも高い利益を得るとは限らないという結果も得られた。売買の必勝法があれば,ゼロサムゲームでは全員が損をしないが,それは同時に誰も勝つことができない。利得の獲得のできない市場は存在の意味がなくなるが,このような基本的な市場の特性が様々な実験で明白に現れた。
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