研究概要 |
本研究の目的は,1990年代以降の先進国経済における金融構造の変化を考慮に入れてポスト・ケインズ派経済学の内生的貨幣供給理論を拡張し,「金融部門の活動が国内・国際経済に著しい影響を及ぼす事態」と理解されている現代経済の「金融化(financialization)」について,資金循環,所得分配,金融政策,金融制度の観点から考察することにある.平成22年度には,研究実施計画に従って次の研究を行った.(1)近年の金融の複雑化・高度化の観点から内生的貨幣供給理論を拡充するための基礎作業として,貸出債権の証券化に基づく「組成販売型」の金融仲介システムを制度部門別資金循環表に導入し,貸出債権を組成した銀行の流動性選好,証券化商品の流動性を確保する市場制度の問題点などの観点から,貸出債権の証券化がマクロ経済に及ぼす影響について考察した.(2)「金融化」の進展が金融政策と所得分配に及ぼす影響を分析するための基礎作業として,インフレ目標政策論の前提にある制度設計の考え方(「賢明な専門家」の「長期的な視野」によって導かれる経済)を経済理論史の立場から検討した.(3)世界金融危機後の金融規制の改革を検証するために,2010年7月に米国で成立した金融規制改革法(ドッド・フランク法)の内容を詳しく検討し,同法は,自己勘定取引や店頭デリバティブ取引に対する規制を課しているが,重大な抜け穴を残しており,大手金融機関の政治的権力を抑止できていないことを明らかにした.また,日本の金融システムについては,金融機関の貸出を通じた資金調達径路が1990年代末以降に縮小傾向にあることを確認し,1980年代後半のバブル経済期と2000年代前半の量的緩和政策期における金融政策の目的と手段を比較検討した.本年度には,以上の3領域についての研究を,相互に連携をとりつつ行った.
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