研究概要 |
本研究の目的は,1990年代以降の先進国経済における金融構造の変化を考慮に入れてポストケインズ派経済学の内生的貨幣供給理論を拡張し,「金融部門の活動が国内・国際経済に著しい影響を及ぼす事態」と理解されている現代経済の「金融化(financialization)」について,資金循環,所得分配,金融政策,金融制度の観点から考察することにある.平成23年度には,研究実施計画に従って次の研究を行った. (1)貸出債権の証券化を伴う「組成販売型」の金融仲介システムにおける金融不安定性とは何かを考察するため,証券化に関わる金融仲介機関のネットワークから成る「影の銀行システム(SBS)」を含む資金循環の構造的特性を把握したうえで,「影の銀行システム」において信用リスクと流動性リスクが最終投資家に転嫁されたか否かなどの諸論点を検討した.非金融部門に対する金融部門の負債総額が同じであっても,金融仲介機関相互の債権・債務関係が巨額に積み上がった結果,証券化商品の流動性の生成と消滅を通じて金融不安定性が高まる可能性のあることを確かめた. (2)ポストケインズ派経済学の内生的貨幣供給理論をめぐる従来の論争点に関する体系的把握をひとまず完了したうえで,「ストラクチュラリスト」の視点を拡張する1つの方向性として貸出債権の証券化を考慮に入れた内生的貨幣供給理論の拡充を提起した. (3)「金融化」の進展が資本蓄積と所得分配に及ぼす影響に関連して,「金融主導型経済成長」の持続可能性の理論的検討,機能資本家・金利生活者・労働者の間の所得分配をめぐる学説史的考察を行った.平成23年度には,以上の3領域についての研究を,相互に連携をとりつつ行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
証券化を伴った金融システムの高度化・複雑化と金融不安定性の関係をめぐる新たな論点,内生的貨幣供給理論の主要論点の体系的な把握,「金融化」が資本蓄積と所得分配に及ぼす影響に関する主要論点の検討など,本研究の中心論点についての一定の研究成果を,学会報告,論文の執筆,著書の作成を通じて行っている.これらの事実に基づいて,「(2)」と自己評価する.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度には,研究代表者と分担者は各担当分野の研究をさらに進めると同時に,証券化を伴う金融システムの高度化.複雑化を考慮に入れた「現代経済の金融化」に関する政治経済学的研究の成果を,共著書などの形で発表することを目標に,さらに努力を続けていきたい.
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