論文「スミスー経済と倫理の哲学者」(2012)において、スミスの倫理学と社会規範の形成とそこからの逸脱という観点でまとめた。同論文の要旨は、スミスは、徳性論を展開する際に、行為には直接関わらない「観察者」の視点を導入し、ゲーム理論的社会規範論が規範をゲーム内部における、直接に相互行為する主体が示す行為の同型性に求めるのに対し、ゲームの外部にいて、行為者の行為を「観察する」という外部視点を導入することにより、行為の正しさを保証した。観察者は直接に相互行為する主体の外部にいて、相互行為を観察する。これにより規範論に外部性の要因が導入され、スミスは規範を行為のルールとして示した。つまり、規範とは個人の性向や行為の同型性ではなく、ルールであることを示した。規範は行為のパターンそのものではなく、行為がこの規則を顧慮することにより同型性を生み出すのである。『感情論』における「道徳性の一般的諸規則」とはこのようなルールである。以上が論文の要旨である。 論文「哲学と企業の社会性」(2012)は、スミス社会規範論の企業倫理学への応用を論じたものである。倫理は一般に個人行動へと適用されるものであるが、規範を行動の規則とした場合、企業行動への適用も可能であることを示した。本論文では、スミスの観察者概念を用い、企業行動を外部から観察する主体の重要性が述べられた。本論文はスミス社会規範論が時代を超えて、現代の企業行動にも適用可能であることを示した画期的な論文である。
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