論文「社会規範論におけるルールの外部性と観察者視点」(『経済研究』17巻4号、2013年、77ー94ページ)は平成22年4月より始まる科学研究費助成事業の締めくくりとして書かれた。同論文の要旨は、スミスは『道徳感情論』において徳性論を展開する際に、行為には直接関わらない「観察者」の視点を導入し、ゲーム理論的社会規範論が規範をゲーム内部における、直接に相互行為する主体が示す行為の同型性に求めるのに対し、ゲームの「外部」にいて、行為者の行為を「観察する」という外部視点を導入することにより、行為の「正しさ」を保証するという観点を提出したという点に、スミスの社会規範論の斬新性を示したものである。これにより規範とは行為の単なる類型性ではなく、行為の「正しさ」についての基準であることが示された。 観察者は直接に相互行為する諸主体の外部にいて、行為者の相互行為を観察する。これにより規範論に「外部性」の観点、第三者効果が導入され、スミスは規範を行為者から独立した行為のルールとして示したのである。つまり、規範とは個人の性向や行為の同型性ではなく、ルールであることを示した。規範は行為のパターンそのものではなく、行為がこの規則を顧慮することにより同型性を生み出すのである。『感情論』における「道徳性の一般的諸規則」とはこのようなルールである。以上が論文の要旨である。 本論は「アダム・スミスと社会規範論」(2008年)、「アダム・スミス経済学の制度主義的基礎」(2011年)の成果を受け、研究プログラムの帰結である、社会規範形成における第三者視点の重要性および社会規範=行為のルールの行為者から独立した外部性を明らかにしたものであり、ゲーム理論による社会規範論に内在する最も大きな難点である行為の「正しさ」の基準を与えることができないという問題を克服する道を開いたのである。
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