本研究の目的は、レオン・ワルラスの経済学体系のうち、所有や税の問題を扱った「社会経済学」の意義を、その成立過程に注目することによって解明し、ワルラスの業績として有名な一般均衡理論(純粋経済学)との理論的・思想的関連に新しい光をあてることである。これによって、ワルラスが公正と効率という経済学の根源的なテーマにどうとりくんかを明らかにし、ワルラスを源流とする現代経済学の再解釈や今後の可能性を示唆することを目標としている。 本年度は、基礎的な準備として、ワルラスの大著『社会経済学研究』の翻訳と注釈の作成にとりかかり、同時に、ワルラス社会経済学が父親から受けた影響にかかわる研究論文(英文)の作成にとりくんだ。この論文で明らかにしたことは、以下の通りである。レオン・ワルラスは父オーギュストから「稀少性」概念を受け継いだが、内容的にはそこに「限界効用」というまったく新しい意味をもたらしたことによって、現代経済学の基礎を築いたというのが従来の一般的な理解であり、同時に、ワルラスの限界効用理論の誕生の背景にセーを中心とするフランスの効用価値論の伝統を見いだす解釈もある。本論文では、レオンの純粋経済学よりも社会経済学に注目することにより、ワルラス父子の「稀少性」概念の背後にある社会ヴィジョンや政策的意図の連続性に注目し、そこには一貫してセー経済学への批判的意図があることを示した。この論文の完成は次年度にイギリスRoutledge社から公刊される論文集に掲載の予定である。
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