科学研究費補助金が採択された本年度は、資料収集と調査を中心に行った。また同時に、かかるテーマで集積された課題を活字化することを行なった。 資料収集・調査については、これまで金銭的な理由で収集しきれていなかった基本的な文献を中心に収集することができた。 研究成果については、2010年度刊行した拙著『近世瀬戸内塩業史の研究』において、瀬戸内塩田において見られる、国益思想と封建思想の相剋を明らかにした成果を盛り込むことができた。また、幕藩制社会の下、砂糖国産化が見られるようになる背景を明らかにすると共に、近世中期以降の和菓子生産にも大きな影響を与えたことを明らかにした(拙稿「砂糖国産化と池上幸豊」『和菓子』第18号)。 また、国益と類似のキーワードである国権の問題について、日本経済思想史研究会12月期例会において、「大久保利通の経済思想-国権の道は経済から-」と題し、近代を展望した報告を行なった。かかる議論は、当日の議論を踏まえて、2011年5月に開催される社会経済史学会大会においてパネル報告「日本の近代化過程における経済政策思想-官民二分論を超えて-」の一つとして「大久保利通の経済政策思想」を報告する予定である。 なお、この間の研究でかかる国益思想の普及にはネットワークがもたらした意味が大きいということが明らかになってきている。2012年度は、かかる視点に立ちながら、いくつかの学会でネットワークを基本とした研究報告をすることを考えている。
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