本年の研究を、調査と論文執筆に分けてまとめると、以下の通りである。 1. 調査 ロンドンのリンネ協会、エジンバラの国立文書館、京都大学や東京大学図書館での調査をつうじて、18世紀イギリスにおけるジャガイモ栽培や食料としての利用に関する調査の追加、イギリスにおける生物学研究の歴史と内容、アダム・スミス文庫に含まれる生物学やスコットランドに関する蔵書の吟味など、期待したペースからは程遠いとはいえ、また少し知見を広げ、積み重ねることができた。この成果は、執筆中の論文で活用されるはずであるが、まだ完全な「実証」にはなり切れていない。 2. 論文執筆について (1) 19世紀イギリスにおける社会改革思想の発展過程を、啓蒙思想の解体と精緻化、つまり市場社会体制の確立・発展という社会の基本構造の変化がもたらす社会問題に対する政治思想・経済思想・社会思想の次元における「対応策の模索」と捉えたうえで、哲学的急進主義、自由主義、および新自由主義思想がもつそれぞれの特徴を、ダーウィンの「進化論」との関連性に注目しつつ解明するために、H.スペンサー、T.ハクスリー、D.リッチーにおける社会改革の思想とそれを支える基礎理論とを吟味した。その過程で、ダーウィンの「道徳の進化論」がアダム・スミスの「共感の理論」と基本的に同一の基盤に依拠していたという新事実を発見し、スミスの経済学を「古典派経済学」の枠内に押しとどめてきた従来の研究の不十分さを、方法論の次元で解明することができた。日本語、英語で論文をまとめ、それぞれ口頭で報告したが、学会誌に投稿するにはもう少し修正が必要である。 (2) スミスの『国富論』における分業論の基礎が、二つの原理、つまり物理科学的・力学的な生産性向上の原理と制度論的・生物学的原理との統合、これに依拠していたことを、価値尺度論の厳密な再構成をつうじて解明し、日本語と英語の論文にまとめ、それぞれ投稿する準備をしている。
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