研究課題/領域番号 |
22530201
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
高 哲男 九州産業大学, 経済・ビジネス研究科, 教授 (90106790)
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キーワード | アダム・スミス / 共感 / 労働価値説 / リベラリズム / 自由 / 栄養価値 / ダーウィン / ニュー・リベラリズム |
研究概要 |
アダム・スミスにおける「倫理と経済学」の問題つまり社会的倫理と市場経済的利己心との対立という問題を、進化生物学や生態学的研究の成果に依拠しつつ、『道徳感情の理論』と『国富論』に内在して解明・再構成するという研究目的自身は、かなりの程度具体的な成果を上げつつある。 (1)生物学的にみた人間と自然の統一的理解をめざした点で啓蒙思想を超えているという点は、以前からの研究成果をさらに補正したうえで、論文"Instinct as a Foundational Concept in Adam Smith's Social Theory"として刊行できた。 (2)利己心による市場効率性の達成は、社会的動物である人間が仲間(家族)や社会と一体感を抱く範囲に限定され、利己心の追求は「人間に保証された自由の内容と程度」に従って「自然な」限度をもつこと、これについては、今のところまだ十分には証明できていない。現在『道徳感情論』を丹念に掘り下げつつあり、24年度中には、おおよそめどがつくはずである。 (3)個人(主観)による他人との関係(社:会認識)の在り方=制度に依存するとスミスは捉えていたから、(4)彼の自由主義は現代のネオ・リベラリズムより格段の広さと深さを持つ、という事実を解明するという点は、まず、スミスの自由主義を、彼の労働価値説の基礎に独自の「自由」概念があること、それが、「食物の栄養価値」という根源的な理解にもとづいて構築されていること、これを「アダム・スミスの労働価値論の再構成」で解明・発表した。また、ネオ・リベラリズムとの違いを明確化するため、ニュー・リベラリズムとスミスの師僧の共通性を探りつつあり、その成果の一端が、論文「19世紀後半イギリスにおけるニュー・リベラリズムの台頭とダーウィンの道徳進化論」である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
かなり肉体的・精神的な疲れを残すほどに努力を重ねているので、「おおむね順調」ではあるが、投稿論分というものにはレフェリー期間が必要だし、共著の場合は、他と著者との関係調整が難しい。それに、何より、授業担当の負担が次第に大きくなりつつあるので、予定のエフォート率と体力との勝負になりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
『道徳感情論』も『国富論』も、もう少し丹念に再構成したい。そのためには、スミスの時代認識だけでなく、19世紀における心理学研究の発展や、ルナー・ソサィアティーのような「科学的認識の進化・一般化」について、もう少し丹念な資料調査が必要である。
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