研究概要 |
本研究の目的は家計消費に存在する規模の経済を推定する理論的枠組みを提示し、日本家計の消費データから計量分析を行うことである。このため、次の1),2),3)のステップ・方法により研究を進めた。また研究結果は4)にあげるような日本家計の厚生水準の評価に有用である。 1)理論モデルでは家族属性が消費に与える経路を明示的に扱った間接効用関数を特定化し推定可能な需要システムを導く。2)導出された需要システムを我が国のデータから推定する。3)推定には全国消費実態調査(全消)の個票データおよび集計データを使用する。4)推定結果からは家計属性を考慮した実質所得水準および所得分布の変遷と(家計)規模の経済の経時的変化をとらえることが可能となる。 本研究の学術的な特色である3つの点につき成果をまとめる。特色1 関数形、需要理論との整合性 通常需要関数は価格と一人当たり所得の関数とされるが、家計規模の経済を考慮し所得項を等価所得弾力性(EE, Equivalence Elasticity)の値に影響を受けるものとした。さらにを家計属性の関数とした家計費用関数から、推定可能な需要システムを導いた。システムはQUAIDSと一致し費用関数との関係が明瞭である。特色2 消費データの網羅性、帰属家賃の利用可能性 「全消」10大支出費目のうち交通・通信を2つに分け11項目とし、住居費には帰属家賃を含めた。また「教養・娯楽」の費目の調整も検討した。特色3 等価所得弾力性値とその変化の推定 「全消」4波のデータから世代、年齢の違いによる嗜好、EEの変化と家計属性がそれらに及ぼす影響が需要関数のパラメータ推定結果から明らかとなった。推定結果はEE=0.5とする従来の簡便法から大きく乖離はしないが、世代、年齢とともに変化し、家計規模の経済が観測期間中増大傾向であったことを示唆する。
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