本研究は時系列解析の統計的手法の開発を目的とするが、22-25年度にわたる研究の具体的目的は、(1)有理関数スペクトル密度行列正準分解法に離散型代数的リカッチ数値解法の逐次法を取り入れ数値的精度を向上させる。(2)非線形変換モデル推測法を時系列因果分析に導入し非ガウス過程予測=因果分析の精度を向上する。(3)非線形変換定常過程の漸近的推測理論を拡張し適切な漸近理論を展開する。これにより従来の因果性分析の適用範囲をボラティリティ因果性などへも拡張する。(4)新しい因果分析理論の視角から経済実データ間の長期的・短期的従属関係の特徴を識別して調査・分析することである。これまでの因果測度の構成は、将来値の線形予測を基本としているが、対象としている時系列が非ガウス過程であるときには、平均二乗誤差基準において、これは必ずしも最適ではない。非ガウス過程では、条件付期待値は線形関数とは一般にならないし、条件付期待値が観測値の陽表的な関数として得られることは時系列モデルでは例外的である。特に平成22年度の研究においては、ノンパラメトリック推定は理論的には可能であるが経済データのサイズを考えると適用に様々な困難がある事が判明した。また条件付期待値予測誤差に基づく、因果測度周波数領域分解を通常の線形予測理論を直接導入して議論することが有効でないことが判明した。また平成22年度の研究においては、非ガウス時系列において因果測度周波数領域分解を線形予測理論と平行して考察するために、Hosoya-Terasaka(2009)で提案したデータの非線形変換によりガウス近似を改善し、変換後変数の線形予測に対して因果分析を適用する接近法を考察した。この接近法ではこれまで本研究者が開発した因果分析法を取り入れて非ガウス過程の因果分析が実行可能となる。この方向での理論の展開を追求し、ノンパラメトリック推定による因果分析接近法との比較研究を試みた。またこれらの研究に必要な関連文献を渉猟して、次年度以降の研究へ向けて準備を行った。
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