本研究は、日本における自営業全般の減少理由について、経済理論を背景に、複数の個票データから実証的に解明することを目的にしている。自営業の動向を綿密に検証していくためには、自営業主ならびに家族従業者の個人属性や就業状況さらにはこれまでの経歴などを粒さに訊ねた個票データによる詳細な実証研究が不可欠である。平成22年度には、総務省統計局「労働力調査」の個票データを用いた研究を実施した。その結果、不況期に学校を卒業した世代ほど、持続的に正社員になることが困難であり、低賃金に甘んじる傾向が強いことが発見された。さらにその傾向は大学卒よりも高校卒について強いことが分かった。その結果は、不況期に被雇用者として就職することが困難であった世代ほど、30歳代もしくは40歳の時点で、新たに自営業を起こす可能性を示唆している。実際、就職氷河期といわれた世代が多く含まれる30歳代では近年、自営業の減少が下げ止まっている事実もみられ、その仮説と整合的だった。さらに、本研究では、大量データを用いた定量研究とならび、ヒアリングによる定性研究などを通じて、新たな自営ビジネスの持続的発展を可能とするための社会的諸条件を具体的に明らかにすることを目指した。平成22年度に、岩手県における聞き取り調査などを継続的に行っており、地域内部でのネットワークの構築と、地域に根ざしたローカルアイディンティティに合致したビジネス展開が、新たな自営業の持続的発展には重要であることを示唆する仮説が得られた。
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