初年度に当たる平成22年度においては、まず、本研究で用いる事業所ミクロ統計データベースの整備を中心に研究作業を進めた。具体的には、経済産業省「工業統計」の個票データを正式の手続きに則って利用できる環境を確保し、提供されたミクロ・データについては、研究代表者と研究分担者が各々慎重に管理の上、研究作業を進めた。同じ企業に属する他の事業所の立地は影響が無視できないことから、事業所データの中から、複数の事業所を有する企業に属する事業所と、当該企業に唯一の事業所を区分した分析も行った。 また、分析対象とする工業再配置政策(工業再配置補助金、テクノポリス、頭脳立地等)について、一般公開された資料をもとに、実施時期、対象地域を整理し、ミクロ・データベースとリンクさせた。工場立地への影響を総体的にとらえるために、工業の再配置を直接に目的としない政策(学園都市等)も考察に含めた。なお、標本期間については、工場の海外立地が本格化する時期を工業統計で把握することは不可能であることから、1980年代までを分析対象とすることとした。政策効果の分析と併せて、工業再配置政策の一つの背景となる国内生産性格差について、工業の集積との関係で分析を加えた。いずれも、横断面分析にとどまったため、因果関係の方向性の特定を伴う強い結論には至らなかったが、統計的規則性の把握等に貢献した。 以上のようなデータ作業と並行して、本研究が純粋学術研究にとどまることのないよう、経済産業省地域経済グループの担当者と意見交換を行い、政策的問題意識の吸収に努めた。 この他、本研究の中心テーマに密接に関連する研究として、国内における工場立地に関する理論的分析、日本企業1の海外立地選択の理論的・実証的分析にも並行して取り組み、それぞれ論文として成果をとりまとめた。
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