本研究では、初年度で理論面における先行文献に関する研究および現地調査による状況把握を中心に行う。そこで当初の研究計画に基づき、文化的財の経済取引(貿易)に関するWTO以降の国際ルールを概観すると共に、関連の先行研究をサーベイした。また、世界市場で文化的財を供給する企業の行動と、知的財産の保護・育成のあり方等を考察するため、経済成長には芸術やメディア等ソフトな文化産業の育成が不可欠として戦略的に文化政策を採用する英国を現地調査した。 一方、経済理論分析については、各国固有の文化保護育成と知的財産権保護に注目し、メディア(映画)産業における各国の取り扱いに関連する先行研究をサーベイした。同時に、国際寡占市場における文化政策のインパクトや文化保護の正当性について研究成果の一部をまとめた。具体的には、芹澤と脇田の共著論文で、人々は過去の消費体験に基づいて文化的財を消費する一方文化の多様性を好むと仮定して、国際貿易の枠組みで異時点間の消費外部性や習慣形成を組入れより一般的な一般均衡モデルを展開し、生産補助が社会的厚生を高める条件、また生産抑制策が必要となる条件をそれぞれ明らかにした。しかし同時に、企業の効率性の違いや他の政策の可能性を考慮する等、より現実に沿ったモデルへの改善余地があることも明らかになった。 さらに芹澤は、消費者の財に対する選好や技術の発展が歴史的、社会的背景に大きく影響される事、また、例えば我が国の生命保険産業では消費者の社会・文化的背景を企業の商品開発・販売戦略に採用していることから、文化的要素の有無で企業や市場の成果がどのように異なるか検討するべく理論分析に着手した。
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