未来世代は、現在の世代や家族に対する発言力を持たない。しかるに、共通の社会経済問題の解決策を提示するにあたり、経済学は現在世代内の利害に重心を置いてきた。さらに、細分化された専門の壁を越えられていないことから、「時間を視野に入れることが必要である」という観点に立った最適解の特定化には至っていない。このことが我々の将来世代の在り方をいっそう不透明なものとし、また我々世代の未来世代に対する以下のような課題をより困難なものにしている。その主たるものは、少子・高齢化、介護、非正規および外国人労働者、所得不平等、人口、医療、年金、都市問題、食糧保障、国家財源不足と国債残高の急増、経済の急速なグローバル化に伴う産業・就業構造、地球温暖化とサステイナビリティの低下等である。この状況下、本研究では、「家計と世代」概念がマクロ経済学のミクロ経済的基礎を形成するよう、家族の行動を家計内生産関数とその動学により捉え直すこととを試みた。 この研究を通し、明らかにしてきた分野は、1)(理論面)家計内生産関数を一般均衡理論体系に組み込むための基礎的構造の解明、2)(統計・制度面)男女別の働き方の実態把握、3)(応用面)「家計内生産を含む一般均衡理論」が理論的に応用できる代表的分野としての高齢者介護など社会保障制度への具体化の試み、である。 さらに、研究を通じ、経済理論・経済政策面とし、1)異時点の間に仮定される効用関数との関係で定義される時間選好率を使わずに均衡を決定できる理論的可能性の解明、2)家計内生産を含む一般均衡理論への政府機能(課税・支出、所得移転)の組み入れ、4高齢者介護等の『ケア』や年金等の社会保障制度を扱える枠組に拡張するために必要となる「世代」構造が組み入れられた理論モデルの構築などが、本研究成果を発展させることのできる分野であることを確認した。
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