本研究はロシア多国籍企業の組織・制度を分析し、新興市場発の多国籍企業の特質・経営戦略を解明することを目的としている。本年度は本研究の基盤部分として、(1)企業が社会において占める位置と行動、(2)国際金融論から見たロシア多国籍企業の組織構造に焦点をあてて実証研究を行い、研究成果を公表した。その際に、現地調査および国際学会での公表と共同研究の発展を意識して、研究を進めた。まず企業と社会の関係に関して、大きくはロシア企業の行動を企業の社会的責任という視角から実証研究を行い、ロシア企業における特殊な社会的責任行動の存在を明らかにした。本研究成果は2010年8月欧州比較経済学会、9月バーミンガム大学で国際会議をはじめ内外の有力なカンファレンスで比較企業・制度の視点から報告している。次に、多国籍企業の組織構造に関しては、ロシアに国内の資金の流れと国際的な資金の流れを多国籍企業が結びつける環になっていることを実証的に明らかにした。本研究成果は世界的に新しい視座からの接近であり、スウェーデンでのスラブ研究世界大会などで報告している。なお、本年度は、上記課題に関連して現地調査を2度行い、専門研究者とのネットワークを構築するとともに、基礎的な資料の収集を行った。 さらに、本年度は、研究課題に関連して、グローバル金融・経済危機の伝播経路、危機要因とその影響にも、本研究課題を関連付けた。この分析視角は日米の国際的な共同研究の一環であり、ロシアが世界的に注目されるほどの経済危機を招く経路を析出した。本研究もまた、日本との比較研究を含めることで研究上の独自性を高め、一橋大学でのセミナーなどの報告や論文の形で公表している。また、本研究課題に関連して複数の著作を刊行することもできた。
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