今年度の研究の目的は2つあった。1つは効用関数の形状が社会の共有資源の利用状況にどのような影響を与えるかについて、従来の分析の多くが仮定してきたいわゆる「方法論的個人主義」に基づく効用関数、すなわち各経済主体の効用水準は自己が消費する財の量のみに依存すると仮定するという想定をしない場合、共有資源は従来の分析に比べてより早く枯渇するか否かを検討すること。もう1つは、資源を採掘する主体と消費する主体が異なっている場合に、両者の間の取引形態が資源価格に及ぼす影響を吟味することであった。 第1の課題については、方法論的個人主義からの乖離の第1歩として昨年度考えた「地位追求的効用関数」に基づく研究に対比させる形で、何らかの「利他性」を加味した効用関数を想定しようとしたが、結果的にはさしたる成果が得られなかった。理由は、利他的効用関数として、主体iの効用水準を自己の消費量とi以外のすべての主体の総消費量の凸一次結合として表す関数を想定して、1共有資源-1共有物的資本モデルを構築したが、昨年度の研究と同じ方法では解が得られなかったためである。この課題については、引き続き研究を進めたい。 第2の課題についてはかなりの進展をみることができた。資源輸出国が決める資源の生産者価格と輸入国が決める消費者価格を規定する資源消費税を政策変数とする2国間動学ゲームを構築し、このゲームにナッシュ均衡が存在することを証明する手立てを見極めることができた。輸出国、輸入国とも政策変数の値を過去から現在時点までの資源利用(資源採掘量=資源輸出量=資源消費量)総量の一次関数として規定すると考えることができる場合には、それぞれの一次関数を規定する2つのパラメタの組み合わせのうち、それぞれの国がもはやそれらを変更する必要がないと考える唯一の組み合わせが存在することが証明できた。今後、非線形の政策関数に一般化したい。
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