研究概要 |
地方圏から都市部への若年人口の移動の結果,都市部への産業集積とともに,地域間における家族の構成や形態に顕著な差異が観察されるようになった.私の研究は,少子高齢化の進展により,この傾向が,今後どのように変化していくのかを分析することにある.そのために,(1)家計内部の意思決定を考慮した家計の立地選択,(2)産業の立地選択,そして(3)均衡の家計と産業の立地パターンの分析が必要となるが,本年度は(1)を完成させ,これをもとにごく簡単な設定の下で(2)と(3)の分析を進めた. 若年人口の地域間移動は,目的地の就業機会の大小によって決定されるが,就業機会の大小は,当人の教育水準次第で変わってくる.したがって,教育水準は,若年人口の地域間移動に大きな影響を与える.もし親世代が子世代の教育水準の決定に大きくかかわるとすれば,親世代は,子世代の立地選択を見越して,子世代の教育水準を決定しようとするだろう. こうした家計内部の意思決定を考慮しながら,教育投資,人口移動,および産業集積のパターンを理論的に分析した.その結果,地域間の大学進学率の差異や,人口の流出・流入のパターンを,現実のそれに近い形で説明できることが分かった.また,産業集積のパターンは,従来の都市・地域経済モデルが導き出すパターンと比較して,一極集中となる可能性と,完全に分散する可能性はともに低くなり,多極化する可能性が,より高くなることを示した. 以上の分析の成果は論文"Geographic Labor Mobility and Family Investmentin Human Capital"にまとめられ,投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
産業の立地選択の分析については,ハイテク産業以外の,福祉や教育およびそれらに関連する産業に注目しながら進めて行きたかったが,現時点では十分な分析は出来ていない.しかしながら,家計の立地選択については,研究実績の内容の箇所で触れたとおり,教育水準の決定を考慮した,より深い分析が成功しつつある.また,家計の立地と産業の立地をあわせた,均衡立地の分析については,簡単な設定ではあるが予定よりも早く進展しつつあり,総合すると,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
上記の進捗状況を受けて,今後は,均衡立地のモデルの生産者サイドに,福祉や教育およびそれらに関連する産業を取り入れ,モデルの分析を深めて行きたい.均衡分析は非常に複雑となるため,シミュレーション分析が必要となる.本年度に構築した基本的な想定の均衡立地モデルの結果を参考にしながら進めて行きたい.
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