都市部への若年人口の移動に伴い,都市部への産業集積とともに,地域間における家族の構成や形態に,顕著な差異が観察されるようになった.少子高齢化の進展により,この傾向が,今後どのように変化していくのかを分析することは重要である.そのためには,家計や産業の立地選択を定式化し,地域間の分業パターンと,地域間の世帯構成の差異が,均衡としてどのように規定されるのかを分析することが必要となる. 私の研究では,主に家計内部においてなされる様々な意思決定-教育投資,その他世代間の私的な移転,世帯ごとの立地など-を,より明示的に定式化してきた.そして,そこから導かれる意思決定と,地域間分業パターンや,地域間の世帯構成・大学進学率の差異が,互いに関連しあって,どのように変化していくのかを分析した. 今年度は,①教育投資以外の世帯間の移転-親から子へのその他移転,子から親に対してなされる介護や,医療その他に関わる移転-をも考慮した分析を行なった.世帯内での私的な移転だけではなく,公的な移転を導入することで,かえって効率的な状況-親と子世代ともに,望ましい立地が実現できたり,貯蓄が増えるなどにより,厚生が改善する-ことが示された. また,こうした結果をもとに,②地域ごとの教育や福祉の機会の差異が,どのように分業パターンを規定するのかを考察した.教育投資の意思決定を,個別の家計や,地方のみに委ねていると,主に地方圏において,人的資本の蓄積が進まず,経済全体においても,蓄積が減速していくことを示した.一方,教育投資を,国などのより上位の政府が公的支出にて行なうと,人的資本の蓄積は進展するものの,極端な一極集中を導く可能性がある.しかし,国と地方の間で,福祉やその他の産業を育成していく政策を適切に分担することで,多極的な都市の発展が実現できる可能性があることを示した.
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