研究概要 |
平成23年度の研究成果としては,数理統計学的汎関数の漸近挙動を評価できたことである.社会力学のMaster方程式の積分核は,距離特異性と時間遅れの汎関数を含めるために,人口密度関数を直接評価するのは困難である.しかしながら,社会力学のMaster方程式の両辺に,時間遅れを持つ人口密度関数を含む適当な関数をかけて,空間変数について局所的に積分すれば,数理統計学的汎関数が満足する時間遅れを持つ非線形方程式系が得られる.この方程式系では,積分核が有している人口密度関数を複雑に変化させる効果が和らげられ,Master方程式より取り扱いやすくなる.すなわち,人口密度関数そのものより数理統計学的汎関数のほうが評価しやすいという結果が得られた.また,上記のプロセスで得られたプロトタイプモデルを,旧来の数理モデルと矛盾する点が無いかどうかを比較検証した.まず,構築したプロトタイプモデルがvon Thunen model,Dixit-Stiglitz model,Simon model等と整合性があるかどうかを数値実験により検証し,その整合性を確認した.続いてKrugmanにより指摘されている,自己組織化過程により大都市が中核に位置し,周辺に複数の衛星都市が生まれるEdge Cityの形成過程が,構築したプロトタイプモデルで正しく説明できるかどうかを検討した.その結果を必要に応じてフィードバックして,プロトタイプモデルを修正した.このような修正されたプロトタイプモデルに対して,研究グループが開発した数値計算法を用いて,モデルの挙動を詳細に調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,当初の計画通り,人口密度関数の増加の様子を直接評価する代わりに,人口移動の数理統計学的汎関数の漸近挙動を評価して,平成22年度に実施した研究結果を利用して予想命題を証明することができた.また,昨年度の研究結果でMaster方程式の解が増加する様子を数理統計学的汎関数を用いて評価し,本年度は,数理統計学的汎関数の漸近挙動を評価し,この二つの評価を組み合わせて解の爆発を証明した.さらに,構築したプロトタイプモデルがvon Thunen model,Dixit-Stiglitz model,Simon model等と整合性があるかどうかを数値実験により検証し,その整合性を確認した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本年度の研究で構築したプロトタイプモデルの修正を繰り返し,最終的な複雑系数理経済モデルを構築する予定である.その完成したモデルにより,都市の誕生と都市の多階層構造の自己組織化,さらに中心都市の周辺に衛星都市が誕生するEdge Cityの形成過程を説明する予定である.研究で得られる複数の評価は,お互いに調整する必要もあるだろうし,またモデル構築が上手くいかない可能性もある.その場合は昨年度の研究で得られた知見をもとにして,数理社会学的に許容出来る条件を付加することにより,現実の経済地理学的知見を説明出来るように,複雑系数理経済モデルを修正することにする.また,当該モデルをvon Thunen型の球対称モデルにチューンダウンすることも視野に入れ研究を遂行する予定である.
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