本研究は、格差感が人々の行動に影響を与えることを前提に、それらが経済成長や実際の地域間格差にどのような影響を与えるかを理論・実証の両面から分析し明らかにしようとするものである。本年度は、データ収集や文献調査などを行った他、以下の基礎的な研究を行った。 理論的側面においては、格差感と移住に関する理論モデル構築についての検討を行った。移住者を受け入れた場合に受け入れ地域に起こる影響を考えるために、移民を受け入れた場合のホスト国への影響を考えるOLGモデルを構築した。移民の受け入れは、ホスト国における若年世代の賃金格差をもたらす他、資本蓄積に影響を与えることで、ホスト国の各世代の厚生にも影響を与えることとなる。 実証的側面においては、公共サービスや社会保障の地域経済に果たす役割について、実態調査と試算的な分析を行った。 人口センサスと地域データを用いた検証の結果、地域間の移住に制約がある場合(例えば、中国の戸籍制度)、それによる公共サービスや社会保障の享受が異なることにより、人的資本集積(human capital agglomeration)が起こり、地域間の経済成長率格差ないし所得格差が拡大される可能性が高いことが明らかとなった。 また、格差感の国際比較分析(日本とシンガポール)について、現状把握と試算的な分析を行った。シンガポールの若者の生活満足度(life satisfaction)は、異なるタイプの人的資本(経済的と非経済的)に影響されると想定し、NYS(2005)を用いた推計結果では、家族の影響などといった非経済的な要素がシンガポールの若者の主観的幸福感や生活満足度に影響を与える大きな要因であることがわかった。
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