本研究は、近年人々が感じている格差感が人々の行動に影響を与えることを前提に、それらが経済成長や実際の地域間格差にどのような影響を与えるかを理論・実証の両面から分析するものである。さらに、海外の事例と比較を行うことである。 本年度は、これまでに行った日本とシンガポール両国の大学生を対象としたアンケート調査に基づき、Ordered Probitモデルを用いて、ゼロサム的な人生目標(仕事における成功、高い給料など)と、非ゼロサム的な目標(結婚、子供を持つ、家を持つといった家庭生活、利他的(友達を持つ、ボランティア)なもの 等)に分けて、さらに詳しい分析を行った。その結果、シンガポールでは、非ゼロサム的な人生目標により、人々は幸福を感じ、さらに、それが生活の満足度に繋がっている。一方、日本では、そういった非ゼロサム的な人生目標は、幸福感をもたらすが、生活の満足感はもたらさないことが明らかになった。その理由としては、シンガポールでは、未だ貧富の差が残り、民族的な要因も作用していることが考えられる。このため、人生の目標を達成すれば自ずと生活の満足度も得られるようになるということが推察される。一方、日本では、人生の目標を達成することが、必ずしも経済成長を促進するとは限らないので、生活における満足感は得にくいだろうと推察される。 以上の結果は、共同論文としてまとめ完成させた。また、Ho教授(シンガポール国立大学)を招き、これまでの研究成果を報告するワークショップを開催し、本研究に関してシンガポールと日本との違いについて検討を加えた。これらの分析から、非ゼロサム的な要因が人々の行動に影響を与え、経済にも影響を与えることがわかる。こうした観点から、ゼロサム・非ゼロサム的な要素を含めた効用関数を用いることで経済成長や地域間格差について新たな知見が得られるであろう。
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