研究課題/領域番号 |
22530249
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
衣笠 達夫 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (30186283)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 公共財、公共サービス / 生産・費用構造 / パネルデータ / 多元性 / 効用関数の中の公共財 |
研究概要 |
本研究は、地方公共団体の生産・費用構造を分析し、その生産性や効率性を明らかにしようとするものである。公共的な企業の民営化・規制緩和は世界的な潮流であり、民営化・規制緩和による生産性の変化を十分に分析する必要がある。現在、民営化・規制緩和の動きは地方公共団体の業務にまで及んでいる。そこで本研究では地方公共団体そのものの、業務の生産性分析を行うことを目的としている。 研究代表者はこれまで、公益事業や地方公営企業に関して生産・費用構造の分析を行ってきた。本研究では、これらの経験と開発した手法を用いて、地方公共団体を「企業に類似したある組織体」と見た場合の、生産・費用構造を分析することを目的としている。 平成22年度は、その第1段階として兵庫県内の市町村のパネルデータを用いて、公共団体の総職員数と行政本体の有形固定資産とを説明変数とし、市町村分配所得を非説明変数とするコブ・ダグラス型生産関数を推定した。 平成23年度は、市町村段階の地方公共団体の、複数財生産のトランスログ型生産関数を推定した。しかしこの成果をいくつかの研究会において報告した結果、「地方公共団体の事務の一部民営化や民間委託を考慮すると、公共団体が供給している財の『公共性』に関する分析が必要ではないか」という意見があった。 平成24年度には、『公共財・サービス』の代替の概念として「市民の都市に対する選択行動」を含めて考えた実証分析結果をまとめた。さらに『公共財・サービス』の特殊性(多元性)を考慮した理論分析結果をまとめた。以上を3本の論文にまとめて、それぞれの学会において報告した。 平成25年度には、現在、アマルティヤ・センの「ケイパビリティ」の概念を計測するように、考察中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には、地方公共団体の用務における『公共性』の位置づけを考察する必要性が生じ、ハバーマス、ハナ・アーレント、宇沢弘文、宮本憲一らの業績を研究した。このため、一時的に遅れが生じたが、平成24年度にはこれらの業績の研究も終了し、この遅れを取り戻した。本課題における『公共性』に関する理論分析も予定通り進んでいる。 平成24年度には、ハバーマス(1962)や宮本憲一 (1967)、(1980)、 宇沢弘文(1994)、(2005)の業績を通じて、地方公共団体が事務を民間移管する際の基準として挙げる必需性・公益性の2軸モデルに欠けている視点を発見した。それは多様性、多元性軸である。『公共性』をこの3軸モデルで評価した研究成果を、2つの学会で報告した。この多様性、多元性軸を、多次元解析、多属性効用関数理論、あるいはアマルティヤ・センによって考案された「ケイパビリティ」の概念に結び付けようと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、「公共財・サービス」の供給側から考える『公共性』ではなく、需要側から考える『公共性』について、研究する予定である。需要側から考えると明らかに効用関数に「公共財」が含まれることになる。しかし「公共財」の多様性、多次元性を考えると、これを取り扱う際に効用関数の序数関数性と齟齬をきたす。 これを回避するために、多次元解析や多属性効用理論は基数関数の効用関数を仮定している。フォン・ノイマン、ハルサーニらは準基数関数の効用関数を仮定している。これらの先行業績を考慮しつつ、どこまで実態の解析に進むことができるか、本年度の課題であると考えている。
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