平成22年度の研究成果は以下の2つである。いずれも保護主義について理解を深めることを目指してなされたものである。 (1) メディア企業は自己目的最大化を目指してニュースを選択し、その報道内容が一般大衆の政治的支持動向に影響を与えることで政治家の保護貿易政策を求める行動にも影響が及ぶというメカニズムをモデル化した。 (2) 輸出自主規制が禁止されたWTO体制下でも、国内の保護主義的要求を満たすために、輸出・輸入国間で輸出自主規制的な解決が図られ得ることを理論・実証の両側面から分析した。 (1) では、社会経済的要因が新聞社の保護貿易政策に係わる記事の掲載内容にどのような影響を与えるのかという分析と社会経済的要因がメディア企業の報道活動を通して政治家の保護貿易政策を求める行動にどのような影響を与えるのかという分析を行った。なお、今回作成したモデルは、Stromberg(2001)European Economic Reviewをベースにしたものであるが、(1)記事の内容が新聞を読むことから得ることの出来る効用水準に影響を与える、(2)報道内容が、情報通の有権者の政治的支持動向に影響を与える、という2点をモデルの中に取り入れることでより精緻化したモデルとなっている。 (2) では、WTO体制下でもセーフガード発動の脅威が輸出国側から輸出自主規制を引き出すことは可能であり、実際に2001年の日本におけるセーフガード発動の脅威が輸出国である中国に輸出自主規制的な方策を実施させた疑いが強いということが示された。なお、セーフガードと輸出自主規制の関係を政治経済学的な観点から理論・実証の両側面から分析したものは、私の知る限り見あたらない。
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