本研究は、東アジアの持続可能な発展の実現のために、各地域のエネルギー消費や環境汚染に関する環境効率を導出し、貿易が環境に与える影響を明らかにすることを目標としている。 平成22年度は、有料データベースやアルバイトの活用によって、実証分析に必要なデータの整備を行った。貿易を専門とする吉田によって、194ヶ国・地域について品目別の輸出額の貿易データが整備された。それによって各輸出額に単位当たりの汚染排出係数を乗ずることで、貿易に起因する10種類の環境汚染物質の排出量を計算することが可能となった。本研究の分野では、汚染集約財産業が先進国から発展途上国に移転することで貿易が発展途上国の環境を悪化させるというpollution havens仮説が成立するか否かが重要な論点となっており、これまで集計的な貿易量や汚染排出量などを用いた実証分析がなされてきた。上述の研究作業の意義としては、こうした先行研究とは異なって、貿易に起因する汚染排出量や汚染集約財産業へのシフトを直接的に観察できるという点があげられる。 平成23年2月、我々は他大学の研究者を招聘してワークショップを開催し、上記の内容を発表した。 また、本間は日本と韓国を含む先進14カ国の11産業部門に関して、国別産業別エネルギー効率を包絡分析法(DEA)で導出し、平成23年3月に国際学会(International Atlantic Economic Conference)で発表した。ここで用いられた環境・エネルギー効率性評価手法の意義としては、所与の経済的アウトプットを減少させずに実現可能なエネルギーあるいは汚染物質の削減ポテンシャルを定量的に測定できることである。この手法を上述の貿易データに適用することを平成23年度に計画しているが、それによって東アジア経済圏あるいは全世界に関して汚染集約財の貿易に伴うエネルギー消費や汚染物質排出の潜在的な削減可能量を示すことは、持続可能な経済発展という観点から重要であると考えられる。
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